マルチな話

 みなさんはマルチ商法というものをどのようにとらえていますか?今回は非常に重いテーマです。このエッセイを読んで批判をもつかたが多々いるかもしれません。しかし、あえて「マルチ商法」について書かせて戴きます。いわゆる悪徳商法とよばれるたぐいにキャッチセールスというものがあります。私がはじめてそれに出会ったのは中学3年生くらいだったと記憶しています。新宿へ行って、ヨドバシカメラで当時全盛だったファミコンソフト「ファミスタ」を買うか買わないかを悩んだ結果、お金がもったいないのでやめました。その帰りの新宿南口でアンケートをしている男がいました。僕はそのアンケートにつかまり、面倒でしたが、丁寧に答えることにしました。「映画は好きですか?」「映画は週何回行きますか?」「最近見た映画は?」「映画が見放題になる券が欲しくないですか?」などのアンケートを受けました。そして、「お名前と年齢を書いてください」というので、記入。すると、急に態度が変わったように、映画フリー券を押しつけてきました。僕は「いらない」と抵抗するのですが、「もうここに名前書いただろう!」と強く言ってきました。そして、近くの仲間が集まり「おいおい、名前書いたなら買わなきゃまずいだろ。」などとヤジを飛ばすのです。僕は仕方なくその券を買うことになりました。3000円です。その券にウソはないだろうから使いつぶそうと思ったのですが、映画館の場所が非常に遠いのです。僕の家からその映画館へ行くには映画のチケット代以上にお金がかかるのです。結局、その券を使うことはありませんでした。不幸中の幸いというか3000円ですみましたが、多分、あの頃からでしょう。僕は人を疑うことを覚えてしまったのです。ファミコンのカセットを買えたじゃないかという悔しい気持ちがずっと残ってしまっているのです。日本TVの番組である電波少年で「箱男」という企画があります。人を信じられないコメディアンを人を信じられるようにする企画ですが、この前の放送で、下着を買ってきてもらおうとカップルにバイトしたお金5000円を渡したのですが、そのカップルが現れませんでした。人を信じた人が、裏切られるというのは非常にショックです。その気持ちはいつまでも残ります。僕もあれ以来、アンケートに答えようとしなくなったし、怪しい電話はまず疑うようになり、紹介したいから会いませんかという話は絶対に行かなくなりました。人を信じられないというのは、それだけで人生のマイナスだと思います。裏切られる痛みが怖くて信じられなくなってしまった自分はとても悲しい人間です。このような「悪徳商法と一緒にするな!」というご意見が多々あるかもしれませんが、僕は下記の2つの話は断りました。断るまで僕なりにいろいろ考えました。その経緯を話したいと思います。

[アムウェイの話]
 大学4年生の夏休み明けの話でした。当時、仲の良いクラスメートと5人でつるんでました。そのなかの一人が会社を辞めて、嬉しそうな顔で「すごい良い商売を見つけたんだよ」と言ってきました。その話を聞いていかにも怪しいと思ったのですが、やっぱり仲の良い友達ですので、友達まで信用できなくなったら終わりだなと思い話を聞くことにしました。その後、友達を誘った人(上の人)の説明を聞くために、その人の家にみんなで行きました。その人は、妙に明るい笑顔で話しました。この仕事をすれば海外旅行へいったりできる時間ができること、サラリーマンという仕事をするのも悪いことじゃないが、一生に入るお金は決まっているということを説明しました。「入るか入らないかは自分次第!」だと言ったとき、やや厳しい顔になったのが印象的でした。もちろん、その場で結論はだせませんでした。その頃、友達は一人暮らしをしていたので、そこへ行って、いわゆる入会するための「スポンサー・パック」なるものをもらいました。とりあえず、その中身を見ることにしました。アムウェイはニュースキンと違って、始める時の入会金が安いそうです。何日かたって、友達は「なべ」を買ったようです。その鍋の威力を見せてくれるということで、食事を作ってくれました。確かに油なしで料理が作れたり優れものでしたが、友達の作ってくれた料理は明らかに失敗していました。まずくはなかったのですが。その後、料理を教えてくれた人の家へ行って、料理の作り方を見ました。もちろん、みんな会員です。ある種、異様な空気が流れていました。みんな優しい口調なのですが、なにか裏があるような感じがしました。料理をたくさん作ってくれて、「宮内くんがいて助かったわ〜」と言ってました。僕はどうしても人間関係の上下と言うものが見え隠れして嫌でした。つまり、僕が友達のグループになれば、彼女たちもプラスになるわけです。そういう考えは嫌らしいと思いますが、思わずにはいられませんでした。そこでも決めることはできませんでした。ぐずぐずしてる僕を今度は、千葉のNKホールでいわゆる集会というものに誘いました。これが凄い光と音楽で、これで洗脳してるんじゃないのかと思うほどです。中島薫といういわゆる成功した人が公演をします。アムウェイで得たお金を盲導犬の普及に寄付しているのです。確かに尊敬できる人です。しかし、自分があそこまでなれるとはとても思えません。彼のように弁がたち、人間のネットワークをもっている人はいわゆる勝ち組みになれると思いますが、僕には全く自信がありません。この集会の後、本屋で、「アムウェイを本当に知っていますか?うさんくさいと手を振る前に(株式会社大洋図書 1300円)」という本を買いました。この本を熟読しました。否定する本もありますが、友達のことを思ってあえて、肯定する本を選びました。自分が自分を洗脳してどうすると思いましたが、友達と一緒にできるなら失敗してもいーかなと思い始めました。それで、その本を読んでるところを父に見られました。父もアムウェイを知っていたようで、「そういうのは絶対儲からないから、やめろ」と断ることを薦められました。僕は昔から父の言うことには、影響をうけるようなところがあったので、断る方向ですすめることにしました。そうこうしているうちに、友達は、しばらくアムウェイの話はあまりしなくなりました。そして卒業旅行にも一緒に行き、一緒に楽しく遊びました。僕が会社に入社してからも、彼は、アムウェイを続けたようです。アメリカの本社に行ったりもしたようですが、しばらくして、その友達もさめたようです。別の目標(ヘリコプターの免許も取得する)をもつようになり、アムウェイの話は全然しなくなりました。今でも彼とはよく遊んでいます(もっとも今はアメリカで免許取得の合宿をしていますが)。やめたことが良かったのか悪かったのかは、僕にははっきり言いきることはできませんが、彼と友達でいられることが僕は嬉しいです。

[ニュースキンの話]
 ある日、残業から帰ると、父から電話がありました。「お父さん、ニュースキンを始めたんだ。」という電話でした。僕にとっては、晴天の霹靂でした。上の話のように「アムウェイ」を完全に否定したということもあるし、また、兄もこういった、いわゆるネズミ講のようなものに、一時はまって、借金を作ったという経験をもっており、借金返済で、父も苦労していたようでした。そんな経験をもっている父から「ニュースキン」の話を聞くのは、あまりに意外でした。まるで洗脳されたかのように、父が「ニュースキン」を誉めます。ネズミ講とは違うことや、商品の説明を受け「とりあえず、集会に出て欲しい」とか「今月中に3人会員をつくらなくてはいけないので、名前だけでも貸してほしい」と言ってくるのです。めったに電話してこない父が、入会の催促で電話をかけてきました。とりあえず、名前だけは貸すことにしました。でも会社は兼業を認めていないことを言って、会社情報を書かなければいけないなら断ることを文面に書いて、契約書を郵送しました。なんか、実家にも帰りづらくなりました。父は60歳を越えて心の隙間ができてしまったのでしょうか?本当に、洗脳されているのでしょうか?僕にはわかりませんが、あまり良い気がしなかったのは事実です。お金に困っているなら仕送りをしたいのですが、そんなことを言うのも失礼だと思いました。兄貴が結婚して孫の顔でも見せれば変わるのかな〜など、いろいろ考えました。とりあえず、メールをやりとりしている友達に相談してみました。「尊敬しているお父さんから、そのような話をされて、とてもショックだったと思います。もし、自分の父親が同じようなことを言い出したら、私もやはりかなりショックを受けるでしょう。ましてや、以前はそういったシステムに否定的な意見をお持ちだったのであればなおさらですね。私自身は、以前、小・中学時代の友人に・・・(本人の了承を得てないので中略します)・・・「ネズミ講・マルチ商法の見分け方:これはネズミ講やマルチ商法の類ではありません、と書いてある、または、しきりに主張するところは、ネズミ講(マルチ)である」なるほど、と思いましたよ。」と、すごく長い真剣な答えを戴きました。その後、父さんは僕の手紙で家族に心配させてはいけないと思ったようです。やろうと思っていたことを反対された父は気を落としていると思うので、何かやりがいが見つかると良いのにと思いました。その後、父から手紙が来て、電話で話しました。やめる方向ですすめてるとのことでした。迷惑かけてごめんと言われました。なんともいえない気持ちでした。やっぱり、収入が無くて焦ってるところもあったと言ってました。父さんは何回も説明会や公演を聞いたそうです。多分、そのとき、洗脳とまでいかないまでも、心の透き間に入ったのでしょう。人間なんて弱い者で、簡単に洗脳されるものだと思います。TVの超能力とか見ていると、怖いなーと思います。いくらでも犯罪に使えるのではないでしょうか。多分、僕もその公演会とか、何回も行ってると、「できるんじゃないか」とか思ってきて、後先かまわず、入会してしまうと思います。自分は、けっこう周りに影響されるタイプですから。あーいった集会へ行ったら負けだと思います。父さんは勧誘のノルマに追われて、家族に迷惑かけてしまったと言ってました。ニュースキンで扱っているのは、化粧品とか洗剤、健康食品です。とりあえず、勧誘まがいなことは辞めて、副業程度に販売はやろうと思ってるといってました。もともと、ヘアートニック作って、化粧品も売ってた父ですから、それくらいなら、いーかなって思います。いくつか、買い込んでしまったらようです。父さんが入った動機は、昔の商店街仲間に誘われて、説明会に出て、気持ちがきまったとのことでした。兼業の件を理解して、僕の登録はやめたそうです。父さんが、この仕事をやめてくれて本当に良かったと思いましたが、反対された父さんは落ち込んだのではないでしょうか。

このように人の気持ちをブルーにさせるマルチ商法ですが、僕は完全に否定をしているわけではありません。成功する人がいて、失敗する人がいる。資本主義のありかたそのものなのですから。「ナニワ金融道」にもマルチの話はありましたが、完全に否定する話ではなかったように記憶しています。問題なのは、人に迷惑をかけたり、人間関係を崩したりすることです。洗脳じみた勧誘のやり方はやめて欲しいと思います。('00/7/1)


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