同期の子の話

 同期の子が母親になる。「初恋のあの人がもうすぐ母親になる」というゆずの歌ではないが、実際、同期が母親になるというのは、不思議な感じがする。この子は元同じ部署で仲の良い女の子だった。僕が今の部署で頑張っていけたのは彼女(たち)のおかげだと思う。最初は希望していない部署で嫌で嫌でしょうがなかったが、大勢の同期がいて助けられた。僕の配属された部署は「特別プロジェクトグループ」という名前はカッコイイが、「まだ赤字だから事業部にはしない。」というところだった。同期は24人いた。うち5人が女子で、うち4人が短大卒の「書記さん(差別用語になるらしく、言ってはいけないらしい)」と呼ばれる人たちだった。その中の一人が彼女だ。彼女は短大卒なので合同研修の時には、すでに部署が決まっていた。僕は技術希望で彼女の所属する営業が専門の部署には希望を出していなかったので、同じ部署になるとは思ってもいなかった。しかし、希望は叶わず、5部署あるなかの第5希望であるこの部署で働くことになったわけだ。前述したように、はじめは嫌で嫌でしょうがなく、彼女に仕事の愚痴などのメールをだした。彼女も不満がある時は愚痴のメールをくれた。また、忘年会で芸を一緒にやったりしていくうちに、友だちになれた。同期とは不思議なものだ。年齢が離れているのに同世代になってしまう。これが学校の後輩なら「宮内さん」と呼ぶが、同期は「宮内くん」になる。後輩と同い年の同期に「宮内くん」って呼ばれても違和感はないが、後輩に「宮内くん」と呼ばれたら、違和感を感じる。呼び捨てなんてもっての他。彼女ももちろん「宮内くん」と呼ぶ。関係ないが彼女から見た僕の特徴は下記とのことだった。よく判らないが、古畑任三郎曰く「典型的なA型の乙女座」といったところだろうか(笑)。

[好きなタイプ]よくしゃべる子・あとパッチリお目目が好き。ショートカットも好き。
       古典的な女の子らしさに弱いと思われる。
[好きな食べ物]とにかく食べる。
       甘いもの大好き。
特徴:    ガタイがよい。ガッチリしてる。背は高い。髪型はぼっちゃん刈り。
       服装はカジュアル・パーカーとか着てた記憶があり。
性格:    シャイ・でも慣れると毒牙をみせる。モノマネがうまい(内部ネタ)
       兄貴的要素あり。なにげにしっかりしてるが、それがわかるまで
       若干時間がかかる。はじめは相手のペースについていくかも。
       かなりあがり性。マメ。コマメ。Powerpointが好き。
       なんだかんだいっていい人です。まじめです。

 今年の5月末のことだった。彼女からIPメッセンジャーというソフトで「夕飯一緒に行きましょう。言いたいことがあるの。」と言って(書いて)きた。何かいつもと違う違和感を感じた。仕事を早く終わらせて、会社の近くのCASAで食事をすることにした。オムレツを食べて何気ない日常の話をしていたが、急にだまって見つめ合って「おなかの中に赤ちゃんがいるの・・・」と、言われた。僕は「あの時の子か・・・?」と思ったというのは無論、冗談であるが、周りの人が盗み聞きをしたら、僕の子かと思うといった雰囲気であった。それにしても、こういう時は何と言えば良いのか悩む。結果、出た言葉が「俺の子じゃないし。」。最低だ。機嫌を悪くしてしまった。なんとか機嫌をとりもどしたが、こういった場面であ、何と言えばいいのだろうか?「おめでとう。」というのも照れくさいものがあるし、「うっそ!マジ?」とかオーバーなリアクションをするのもどうかと思う。彼女は、この時「胎児の写真」を見せてくれたが、これもまたリアクションに困った。胎児といっても黒い影があるといったレベルだった。そういえば、この前、友だちのチュニジア人が父親になったのを思い出した。その時の出産ビデオを危うく見せられるところであった。僕はビデオを見るのを拒否した。しかしながら、奥さんが出産で苦しんでいる時に、よくビデオが撮れるものと感じた。僕がその場面にいたら血を見ただけで貧血をしそうだ。最後のへその緒切るところだけ見たが、へその緒って不思議だ。切るとなるのだろうか?シュルシュルシュルと掃除機のコードのように元に戻るのだろうか?世の中不思議な事、知らない事がいっぱいだ。知らないことがあるから生きていくのが楽しいのだと思う。彼女の話に戻るが、彼女は将来のことを考えて、「おろす」という選択も考えたそうだ。しかし「この写真を見て、この子を殺しちゃいけない。」そう思ったそうだ。実際、この時の彼女は大人に見えた。母親になる決意をもった女性。産めることの幸せを語ってくれた。人が人を産む。新しい人生を作る。これも不思議なことだ。この前まで子供だと思っていた子が、母へと変貌する。彼女の結婚式は身内でひっそりやるそうなので、僕がまとめ役となって式場に同期一同の電報を送った。電報の内容は子供を「星」とたとえて、『これからお二人の空に輝く小さくてかわいい「星」を大切にして下さい。』という一文を入れた。そして、彼女は8月に会社を辞め、星を輝かすための準備に入った。同期が会社を辞めるのは、寂しいものだ。そんな彼女への出社最後の日に送ったメッセージが下記の文章だ。星の王子様の「キツネの言葉」を書き換えただけの内容でることが判るだろうか?

  君と僕がもし出会わなければ、君は数千万といる人間の一人でしかなく、
  君がいなくても僕はなんとも思わないわけだ。おなじように、君にとって
  僕は数千万といる人間の一人でしかなく、僕がいなくても君はなんとも
  思わないわけだ。でも、僕らは数千万、数億分の一の確率で出会い、君は
  僕にとって、この世でたった一人の「○○○○」という掛け替えの無い
  存在になったわけだ。おなじように、僕は君にとって、この世でたった
  一人の「宮内くん」になれたわけだ。だから、君がいなくなるのはとっても
  辛いことになったわけだ。でも、本当に大事なものは目には見えないもの
  なんだ。こころで見るものなんだ。僕は会社へ行く度に君の真剣な顔を思い
  出し、同期に会う度に君の笑顔を思い出す。こころで見ることができるから、
  僕はいつでも君に会えるんだ。寂しくないと言ったら嘘だけど、笑顔で君を
  見送ることができるんだ。さようなら、お元気で。
  以上、ご期待の「愛の言葉」でした。そんなわけで、バイバイキーン!

 最後に、親になるというのはそれなりの「責任」というものが生まれる。親は時として命をかけてでも子供を守るものだ。子どもを産んでからが大変だと思う。赤ちゃんがお腹にいる時は「早く出て」と思うが、いざ出ると「戻って」と思うそうだ。これからがスタートだ。新しい生活のスタート、新しい人生のスタートだ。健康で丈夫な赤ちゃんを産んでください。がんばれ!!('00/12/6)


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